いい夫婦の日(アベミハSS)

☆22日☆


●日記に拍手レス。
●日記にアベミハSS。

いい夫婦の日記念!
ハロウィンとか何も出来なかったので、何かしたかったのです…










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【言葉もない】










一年の時は定期的なものだけであった試験だが、学年が上がればそれだけとはいかなくなる。
翌年に控えた受験に向けて、数は否応なしに増してくる。
模擬試験、実力テスト、小テスト。
名前や形式は様々だが何れも己の学力を試されると言う点では同一だ。

故に、赤点や補習の有無に関わらず悪い点を取るのは好ましくなく、事前の合同学習は西浦野球部にはもはや恒例となっていた。
そして今回も、期末テスト前に行われる11月末の実力テストの為にと一同はまた集まる事となり、今回は久しぶりにその場所が三橋の家と相成った訳であるが。

「お前ら、コンビニ寄って何か買ってから来い。俺と三橋は先行ってるから。」

突然阿部からそう言われ、一同はきょとんと目を見開く。
いや、コンビニに寄るのは事前に決めていた事であるが。

「何で阿部と三橋は来ないの?」

水谷が口に出した問いはその場にいた全員のものであった。

しかし、そんな全員が疑問に思っている事など露も知らず、阿部はさも当然の事のように答える。

「人来んのに部屋片付けとかねぇと仕様がねぇだろ。」

そんな事も分からないのか、と。
呆れたように。

「こいつの部屋がいつ人が来てもいいような状態だと思うか?」

まぁ、それはそうなのだが。
しかし、そうハッキリ、しかも本人の前で言うのは余りに失礼すぎやしないだろうか。

いや、それ以前に。

(疑問なのは先に帰る事じゃなくて、何でそれが二人でかって事なんだよ!)

帰るのが三橋だけと言うなら分かる。
人が来る前に自分の部屋を片付けておこうと。
それは自然な流れだろう。
しかし、言い出したのは阿部で。
当の三橋は横で黙って立っているだけだ。
手伝ってと頼んだ気配すらない。
ずっと無言で、ただ阿部の言葉にコクコク頷いているだけなのだ。

え、なに、何で疑問に思わないの?
それとも、俺らのいない所で実は話が通ってたりしたの?
勉強会からその場所が三橋宅に決まるまで俺らずっと傍にいた筈だけど。
知らない内に二人でどっか行ってた?
そう、思わず己の記憶を疑ってしまいそうになる。

「こいつらに常識を当てはめるだけ無駄だ、花井。」

思考に囚われる部で一番の常識人である花井を我に返らせたのは順応性に定評のある泉で。
さっさとコンビニへ行こうと背中を拳で叩き花井を促して来る。
気づけば皆脱力や苦笑を浮かべながらも歩き始めており、阿部と三橋に至っては既に姿もない。
聞けば二人はとうに阿部が腕を引いて、駐輪場へ向かってしまったらしい。
曰く、待ってても時間の無駄だそうだ。
幸いにして、その言葉は思考に囚われていた花井の耳には届かなかったのだが。

「あいつらが規格外なのなんて今更だろ。」
「まぁ、阿部は前からちょくちょく三橋の家に行ったりしてたみたいだし…だからじゃないかな?」

待ってくれていたフォローの副主将の言葉は、分かるような分からないような。
だって恐らく阿部よりずっと前から、ずっと頻繁に三橋宅に行っているであろう田島は、あんなさも当然と言うように友達の家を片付けに行ったりはしない。

「そこは、阿部だから、だろ。」

泉はもはやフォローする気もないらしい。
しかし、そっちの方が悲しいかな納得できてしまう。

「何で勉強する前からこんな疲れてんだ…」

肩を落す主将の言葉に、どこからともなくいくつかの溜息が重なった。






しかし、脱力してしまうような二人のやり取りはそれだけでは修まらなかった。

そんなこんなでコンビニを経由して辿り着いた三橋宅。
家主の三橋に出迎えられ、通された部屋で阿部が甲斐甲斐しく掃除機までかけていたのでまたどっと疲労感が増したのだが、そんなのはまだ序の口だった。
その後一段落したからと休憩を取る事となった時、この場を片付けるよりも移動した方がいいだろうと、何故か阿部の先導でリビングにいく事となったり。
その移動した先のリビングで一同が何となく所在無げに立つ中、何故か阿部だけスタスタとキッチンへ向かったり。

「あ、阿部、く…マドレェヌ、もら…」
「出していいのか?」
「た、多分…」
「んじゃ。皿だすか。」
「あ、それ、だとち、さいかも…そっち、に…」
「こっちか?」
「う…」

こんな会話を繰り広げられたら、自分達はどうしたらいいのだ。

「コップ足りねぇ?」
「う、ん。」
「いくつ?」
「3、個!」
「ん…」

そうしている間にも、阿部がシンクのコップを洗っている。
三橋はそれを拭いて、7つ並んだ隣に置いていく。
阿部が氷を入れ、三橋がそれを運ぶ。
そして最後に阿部がシンクを台拭きでざっと拭き、冷蔵庫から大きなペットボトルのお茶を持ってやって来る。

「お前ら、何で立ってんだよ?さっさとその辺適当に座れ。」

三橋がコップ置けねぇだろと告げる阿部に、だから何でお前がそれを言うんだと聞く方が不自然な気がしてくる。

「何、この新婚家庭にお邪魔しちゃいました的な空気…」
「いや、ありゃもう熟年夫婦の域だろ…」

どっちらにせよ気持ちは同じだ。
つまり、身の置き所が無い。

もうとにかく脱力しか出来ずに皆がぐったりと床に座り込む横では、相も変わらず二人が手際よくコップにお茶を注いでいるのだった。





END










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いい夫婦の日って事で。
タイトルはらーぜの心境とアベミハの二つの意味です。

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